【初心者向け】獲得型広告(ダイレクト)と認知型広告(ブランド)は何が違う?現場経験から解説

WEB広告代理店は、大きく分けて二つの種類の仕事で成り立っています。

ひとつは、CPA改善に命を懸ける「獲得(ダイレクト)型」。 そしてもうひとつは、ブランド戦略を担う「認知(ブランド)型」です。

私がキャリアをスタートさせた頃、この二つが別の世界だとは知りませんでした。中小代理店でCPA改善しか考えていなかった私にとって、大手で語られる「ブランドの価値」は、理解不能なものでした。

しかし、この業界地図の構造を知らなければ、転職先選びやキャリア形成で必ず後悔します。なぜなら、あなたの「日々の業務内容」も「成長実感」も、この二つのどちらに身を置くかで決まるからです。

この記事では、両方の現場を知る私だからこそ語れる、獲得型と認知型の差と、あなたの市場価値を高めるキャリアの描き方の参考にしてください。

目次

私が“獲得(ダイレクト)”と“認知(ブランド)”の違いを痛感した瞬間

導入でも記載しましたが、広告代理店で働き始めた頃、私は「獲得型(ダイレクト)」と「認知型(ブランド)」という言葉すら知りませんでした。

中小のWEB広告代理店にいたときは、毎月の目標CPAをどう下げるか、CV数をどう積むか。その一点に全ての議論が集中していたからです。広告とは“獲得してこその世界”だと信じて疑わなかったですし、他の概念が存在することすら想像していませんでした。

それが大きく揺らいだのは、大手WEB専業代理店へ転職したときです。上司から「今回の案件はダイレクト(獲得)ではなく、ブランド寄りの施策だから」とか「今まではダイレクトをやってきたんだ?」と言われた瞬間、正直、頭の中が「?」でいっぱいになりました。

ダイレクト? ブランド? そんな分類があるのか、と。

中小で経験したのは、ほぼ100%が獲得型(ダイレクト)施策。そしてWEB広告の真髄はどれだけCVに繋がったかが見やすい事だから、「すぐに売上につながらない施策って、なんの意味があるんだろう?」と本気で思っていたほどです。CV数がすべての世界で働いてきた私にとって、理解が追いつくには時間がかかりました。

しかし、総合広告代理店へ出向した際、大手企業が「短期的な売上よりもブランドを維持・成長させること」に予算を惜しまない姿を目の当たりにし、価値観が徐々に変わっていきました。

“広告は必ずしも「今すぐ成果」を出すためだけにあるものではない”

という視点をここで得ました。 実際にブランド施策は売上効果は見づらいものの、ブランドの中長期成長を考えるととても必要なものだと思うようになりました。

獲得型広告(ダイレクト)とは?最初に理解すべき本質

獲得型広告は一言でいえば 「今日売る広告」 です。

目標は明確で、CV(申込・購入・資料請求など)の最大化。そのためKPIはCV数・CPA・ROASのように、売上に直結する数字ばかりが並びます。

使う媒体もリスティング広告やMeta広告の獲得メニュー、さらにはP-MAXなど、獲得のための学習能力が高いものが中心です。毎日の成果と向き合いながら、時には喜び、時にはどうクライアントに説明しようかと心臓が痛くなったりします。

この「短期成果を求める文化」が、若手の心を削ることも事実です。

獲得施策をやる際、慣れるまでは毎朝レポートを見るたびに心臓が痛くなる思いでした。数字が悪いときは、とにかく全員の表情が暗くなるという事は日常茶飯事でした。(特に大きな企業が相手になると得意先の担当も更に上司に詰められるという気持ちでブルーになり、代理店への扱いもひどくなったりもします。)

一方で、この世界には圧倒的なやりがいがあることも事実です。

改善すれば数字で返ってきて、成果が出ればすぐに予算を追加してもらえたり、クライアントに喜ばれたりと、成果が分かりやすいという特徴があります。数字が伸びた日には、運用者としての自信が一気に高まります。

もし成果が悪くとも、原因を突き詰めて考え、実施した施策が成果が良ければ更に自信にもなります。PDCAを高速で回すWEB広告らしさが凝縮された領域は間違いなくこの獲得型施策にあると思います。

認知型広告(ブランド)とは?成果が見えにくいけれど重要な理由

認知型広告は 「未来の売上を育てる広告」 です。

すぐに成果が見えるわけではありませんし、CPAのように分かりやすい指標もありません。代わりに重視されるのは、リーチや視聴数といった分かりやすい数値や、ブランドリフトのような“態度変容”に近い数字となります。(KPIの見せ方も代理店の手腕が出やすい所です。)

分かりやすいのはTVCM広告となり、 WEBのみに閉じるとYouTube広告、CTV面を中心としたOOH(TverやABEMA)、SNSの予約型など、大規模なメディアでの露出が中心になります。 特にTVCMなどをやれるだけの体力がある企業がこの認知型を重視している傾向があります。

総合代理店に出向していた頃、私はこの認知型(ブランド施策)特有の進め方に慣れず困りました。

獲得ではとにかく成果データに基づいて判断するのが基本ですが、ブランド案件では事前の資料作成や上申、社内稟議、大規模なクリエイティブ制作(CM動画)など、踏むべきステップが多く、日々の動きも全く異なります。

さらに、提案時は「これを実施したらどれくらい成果が出るの?」と問われても、獲得のように明確な数字が示せません。データの裏付けが少ない分、相関関係などを探し出してきて、指名検索数を増やせたら良いといったお話や、ブランドリフトによる認知度調査の成果を出す、という提案でどうにか納得感を持ってもらう、ということがほとんどでした。

また、認知案件にも関わらず、すぐすぐの売上を求めてくるクライアントも一定数いて、「この配信で売上はどれくらい上がりますか?」と無理な期待をされることもあります。こうしたギャップ調整が、とても難しい領域ではありました。

いまどきTVCMを大々的に出したとしても、相当なブランド力が元々ある、何か大きなCP施策の一つ、などでもない限りROASがすぐすぐに合うという事はないと思います。また、YouTube広告でどれだけリーチをしたとしても、結果すぐすぐの売上になるということはもっとないな、、というのがWEB広告のリアルだと思います。 (とはいえ私自身何度も当たる広告は覚えていたり、ふと商品を見た時にあれはあの時の!となることもあるので数値には出しづらい効果はあるのだろうなあ、とは日々感じます。)

ブランドリフトの結果も即時には出ず、こちらのコントロールはほぼ効きません。 例えばリーチ数や視聴完了数などでKPIを握れていれば、ある程度コントロールはしやすいですが、ブランドリフトは施策後の上がり幅などもシミュレーションが立てづらい領域です。その意味で、認知型広告は実施するまでがしんどい広告だと私は思っています。

一方認知型施策の魅力としては、CM使用を始めとする大々的なプロモーションには繋がりやすく、いわゆる芸能人を起用しての施策などもこちらの領域となります。 そのため分かりやすい広告業界の華々しさは認知施策の方があるとは思います。 (昨今は芸能人を起用しないケースも増えてきているので、いわゆる誰もが知るナショクラ案件でないとその恩恵は得づらいですが…)

2つの広告は“仕事の進め方と求められるスキル”が根本的に違う

獲得と認知は、同じ広告を流してはいるものの、求められるスキルは結構異なります。

獲得型はとにかくPDCA速度、圧倒的CV数やCPAが命です。 週次単位で施策のPDCAを回す事や、提案が通ればすぐに実装できる体制作りなど、目下の施策対応に追われる事はどうしても出てきます。成果の語り方は基本CV数やCPAといったロワー数値のみで、いかにこの数値を下げていくのかをロジック建てて話し、すぐに得意先からもOKをもらい実行していく必要があります。(もちろん案件によってはROASや実売上にもなります)ただし得意先も目の前の数値改善をすぐに行いたいということが多いので、改善提案は通りやすいです。

一方、認知型は施策前の“施策の確からしさやなんとなくの目新しさ、企画力”が求められます。 施策意図のストーリー化、社内外の合意形成力、企画力(CR力)といった施策を実施するにあたっての確からしさを追いかけ続けることになります。 獲得型であればCV数をどれだけ増やせるか、という分かりやすい話しになりますが、認知型はそういった分かりやすい指標がまだまだない領域だったりするため、結果色々な指標を追いかけることになったりすることもしばしばあります。

また「広告の出方」なども特に意識させられるケースも多いです。 例えば配信媒体によっては同じCRを使っていても若干の差が出てきますが、そこで得意先がブランド棄損だと感じるラインはとても高いと思います。(獲得施策ばかりのクライアントは出方、よりもしっかりとCPA合っているのか、という視点になりがちですが、認知施策ばかりのクライアントはどう出ているか自体が重要だったりする傾向は多くあるなと思います。もちろん獲得施策でも予期しない出方ばかりしていたら怒られるのであくまで傾向までに。)

私はキャリアの中でこの2つの環境を行き来しましたが、そのたびに「まったく別の職種に転職したかのような感覚」を味わいました。

獲得しか知らなかった頃の私は、認知施策をどこか“ふわっとしていて実態がないもの”だと感じていたし、認知しかやらない人は逆に“獲得の数字プレッシャーに耐えられない”ケースが多いなと感じる事があります。(というより、一度認知型に慣れてしまうとなかなか獲得施策には戻りづらい、というのは精神的な面でも大きくある気がします。。笑)

だからこそ、両方理解している人材の希少性はとても高いと実感しています。

初心者がつまずくポイントと、最初に理解しておくべきこと

WEB広告初心者がまず理解すべきことは2つあります。

  1. 「そもそも広告の世界では獲得(ダイレクト)施策と認知(ブランド)施策という考えがある」ということ
  2. 「施策が変わればコミュニケーションも変わる」というくらい別物だという事

獲得案件でブランド指標を追いかけたり、認知案件なのにCVを求めたりすると、クライアントとのコミュニケーションがすれ違い、プロジェクトが破綻します。(特に多いのは認知案件でCVも求めて、施策もめちゃくちゃになるというケースです)

実際、認知案件にもかかわらず「売上はどれくらい増えますか?」と聞かれて困った経験は何度もあります。 逆にいえば、目的さえ正しく設定できれば、広告運用で行う事自体はとてもシンプルです。

まとめ ― 両方を経験すると、市場価値が一気に跳ね上がる

私自身、獲得型だけでは見えなかった世界が認知型を経験することで広がりました。 短期成果だけでなく、ブランド資産が企業の成長にどう寄与しているかが理解できるようになり、運用者としての視点も大きく変わりました。

獲得で数字を動かす楽しさも、認知で企業の将来成長を考えるやりがいも、どちらにもやりがいはありました。

そして何より、「どちらかしか知らないマーケターは弱い」というのは本音です。

両方を経験したからこそ、私は今「幅広い視点で施策を考えられる運用者」としての強みを持てています。獲得施策で頭打ちになったとしても、認知施策による提案に舵を切ったり、逆にすぐに認知に逃げず獲得を泥臭くやり切るという提案もできるのは自分の強みになっています。

若手のうちにぜひ、どちらの世界も覗いてみてほしいと思っています。

よくある質問

Q1. 未経験から転職する場合、獲得型と認知型、どちらの求人が多いですか?
A.圧倒的に獲得型の求人が多いです。WEB専業代理店や中小の広告代理店は、基本的に「売上に直結する案件」を求められるため、獲得型が主流になります。未経験者は数字を扱う機会が多く成長速度も速いため、獲得型からキャリアを始めるのが王道ルートと言えます。

Q2. 獲得型はずっと数字に追われて精神的に病みませんか?
A.正直、向き不向きはあります。特に最初の半年〜1年は、毎日のCPAの上下に振り回され、精神的に疲れてしまう人も珍しくありません。ただ、経験を積むと「なぜ悪化したのか」「どう改善するか」が見えるようになり、必要以上に落ち込まなくなります。数字で明確に評価されるため、成果が出たときの喜びは大きい領域です。また、数値が悪かった時の説明が上手い人は少ないので、その点も得意先が納得感を持ってくれるような説明ができるようになると成長実感を持てます。(その前に得意先に切られることもありますが、、笑)

Q3. クリエイティブ(バナーや動画)の作り方も違いますか?
A.まったく違います。獲得型では「クリックさせる」「行動させる」が最優先なので、訴求の強さや目立ちやすさが重視され、デザインよりも成果が優先されます。一方で認知型は「企画の面白さ、デザインの目新しさ、ブランド価値が伝わっているか」が絶対条件で、フォント・色・案件背景など細部まで厳密に管理されます。まったく別の思想で作られた広告だと言っていいでしょう。

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